水平野(すいへいや)

思ったこと考えたことを書いていく

Jamesが考察する仲介負利子金融について

今回、寄稿させていただきますJames(日本証券アナリスト協会検定会員)と申します。
私は現在、メガバンクに勤務しております。銀行を仲介とする「仲介負利子金融」についての記事を拝見し、銀行実務などの面から意見を述べさせていただきます。
inmthrnb.hatenablog.com

国、地方自治体が民間の個人や法人に労働力を提供することは、どのような内容の労働かによると思います。つまり、実際に民間が必要とし、満足する労働を提供することができるかが問題となります。
国や地方自治体では、民間に要求されるビジネスなどの専門技能や実務経験のある人材を多く確保するのは難しく、国や地方の公務員を担い手とすれば、現在の行政サービスを超える労働の提供は現実的ではありません。行政サービスということであれば、民間の個人や法人からの労働の対価としての支払いは、納税となります。
支払いにかかる銀行の貸出にかかる費用を含んだ仲介手数料を民間の個人や法人に負担させる動機づけが不明瞭こともスキームを成り立たせる障害となると考えます。

国や地方自治体の資金調達方法ということでいえば、銀行からの貸出ではなく国債、地方債の引き受けが現実です。
現状、日銀は国債の買いオペによりマネーサプライを増加させ、景気の安定化を図っています。仲介負利子金融スキームでは国の借金を減らすため、市中からマネーサプライを減少させ、景気を悪化させる恐れがあることでも金融政策の方向性と乖離が生じていることも実現性には疑問が生じるところです。

財政再建か金融政策重視かということでは、金融政策が重視されているといってよいと思います。マクロ経済学では国債金利が経済成長率より大きい場合は、財政赤字の継続は、政府債務残高対GDP(国内総生産)を発散させるという意味で財政破綻を惹起するため、財政再建が必要になります。
一方、経済成長率が国債金利より大きい場合は、一定の条件のもとでは、財政赤字が継続しても、政府債務残高対GDP比率は放っておいても一定の値に収束するので、財政再建は不要と考えられています。現状は後者であり、インフレ率が上昇していますが、マイナス金利政策を継続しており、財政再建よりも金融政策による経済を持続的に拡大させることを重視しています。

仲介負利子金融のスキームはマイナス金利政策の継続が前提ですが、現状の世界的に急激なインフレが進む中、日本でもプラスの金利政策への転換を行うことも十分に考えられます。

銀行からの貸出の返済を、貸出先である国や地方自治体から受けることはなく、民間の個人や法人からの労働の対価としての支払金による代位弁済を前提とするスキームと見受けられますが、その場合、貸出には民間の個人または法人の信用リスクも影響してくること、個々の貸出と返済が対になる金銭消費貸借契約の締結と貸出の実行と返済の実務がスムーズに行えるか、実行と返済のタイミングが短くてはマイナス金利分の支払額は小さく、スキームの目的が果たせないということが問題となると思います。
銀行としては安定的に遂行するためのシステムの構築が必要であれば、開発にかかるコスト負担が生じるため、民間の金融機関での取り扱いは現実的に困難となると思います。

仲介負利子金融スキームの実現は以上のような困難な面があるとは考えますが、今後、防衛費の拡大など財政赤字はさらに膨らむことが予想されるため、財政再建は日本国民にとって重大な問題であり、マイナス金利を利用した問題解決策としての仲介負利子金融スキームをお考えになり、ご提言されたことに感銘を受け、敬意を表したいと思います。