水平野(すいへいや)

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Jamesが考察する銀行預金のマイナス利子適用について

・自己紹介

 

 初めまして、今回【銀行預金のマイナス利子適用】について執筆させていただきましたJames (日本証券アナリスト協会検定会員)と申します。

私はメガバンクに勤務しており、銀行預金のマイナス利子という身近であり興味深いテーマであったため投稿させていただきました。

 ・銀行預金と利子について

 

 銀行預金は保管と運用についての消費寄託契約です。預金者が銀行に金銭の保管を委託し、銀行は預金者に同種、同額の金銭を返還する義務を負い消費寄託の性質を有します。預金契約に基づく銀行業務は預金の返還だけでなく、振り込み入金の受け入れ、各種料金の自動支払など、委任事務や準委任事務が含まれます。民法においても寄託契約については委任に関する規定が準用されており、受寄者は寄託者に対し、寄託事務の処理に必要な費用に関して、前払い、償還又は弁済を求めることができるとされています。つまり、利子や手数料というかたちで預金者から費用を徴収することは法的にも問題ないということです。

 

日本では長い間、普通預金の利子がゼロに近い状態が続いているので、預金者にとっては預金が運用である感覚が失われやすい傾向があります。預金者にとって預金は元本が保証される安全な運用として考えられてきました。万一、預金にマイナス金利が適用されれば元本割れが生じ、預金者にとっては大きな混乱となると考えられます。

 

銀行の倒産が懸念されるようになると、どこの銀行が安全かを考え、倒産の危険度が高い銀行に預ける場合は預金者がリスクに見合った利子を要求するようになります。預金者は銀行の倒産リスクを考慮し、利子にはそれに見合った銀行の信用リスクプレミアムが上乗せされているかを見極めて預託する銀行を選別します。

 ・マイナス利子の適用はあるのか?

 

 銀行が利子を年マイナス0.01%にし、その代わりサービスを充実させることを検討した場合、どう考えるかという質問に対する回答として、「やめてほしい」「解約を考える」という声は45%、「特に何も思わない」という声は46.9%を占めるという調査データがあります。預金者としてもマイナス金利の適用を回避することを望んでいることがわかります。

 

Google サーベイ - アンケートのレポート

 

もし個人の預金がマイナス金利の適用を受けたら、多くの預金者は銀行にお金を預けるのをやめて、現金を引き出しタンス預金を増やすことになることが考えられます。

 

法律上からも預金から直接、利子分を控除することは問題があると言われており、個人の預金にまでマイナス金利が適用されるというのは現実的ではないと考えます。

 

三菱UFJ銀行は2021年末から20221月にかけ、日銀に預けている当座預金の一部にマイナス金利が適用されたと報道されています。現在、銀行は日銀に預けている当座預金が一定の金額を超えた場合に、超えた残高の年率0.1%分を日銀が徴収する仕組みになっています。

 

銀行が日銀への利子の支払を預金者に転嫁しても、極めてゼロに近いマイナス金利を徴収するメリットは小さいため、欧米の銀行のように口座維持手数料を徴収することの方が現実的であると考えます。ところが、口座維持手数料の導入も現在の日本においては簡単ではありません。銀行業の新規参入が増え、インターネットバンキングの普及など銀行業界の競争は激化しており、口座維持手数料の導入は難しい状況にあります。今後、銀行の経営状態が悪化した場合に、預金約款を改定して口座維持手数料を導入する可能性はありますが、導入したとしても、全ての預金者から一律徴収するのではなく、預金残高が少ない預金者から口座維持手数料を徴収することになることが現実的です。